著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "The Decisive Hour" の日本語訳である。
決定的時間 The Decisive Hour
私の経歴は、写真家として始まった。アジアで何年もかけて、スチル写真による「決定的瞬間」を追求していた。光、角度、視点、形、動きなど、あらゆるものが完全に揃う瞬間だ。私がシャッターボタンを押すとき、そのマイクロ秒の間に、すべてが揃っている。そして運が良ければ、露出や焦点も適正になっている(しかし、それは後でフィルムを現像するまでわからない)。
映画やビデオの制作にも少しだけ関わったことがある。カメラが違うし、撮影手法も違う。決定的瞬間のことは忘れて、連続的な流れを追求するのだ。スチルカメラを使っているとき、このまま動画を撮影できたら良いのに、と何度も思った。両方を同時にこなす方法はあるのだろうか?
デジタル動画を撮影しておいて、その映像から完全に鮮明なスチル写真を取り出すのはどうだろう? つまり、両者のいいとこ取りである。そうすれば、決定的「時間」としての価値がある動画を撮影して、その後で最高のスチル写真を抽出することができる。現場や実生活で気づかなかったような、後知恵も活用できるだろう。決定的瞬間の写真を得ることも容易になる。運に任せなくても良いのだ。
今まで、この夢は、技術的に実現不可能であった。動画から抽出したスチル写真は、写真としての鮮明さが不足していた。しかし、キヤノンの新しいカメラでは、それが実用レベルになっている(訳注:原文発表は2013年1月)。レンズ、センサー、メモリーの進歩によって、動画を撮影しておいて、そこから非常に鮮明かつ適正露出で、情報量の豊富なスチル写真を抽出できるようになった。この紹介ビデオを見て欲しい。
(動画省略)http://vimeo.com/56241602
スチル写真と動画との間に存在していた差異がなくなった。この技術を小型化し改良して、最終的に携帯電話に移植できれば、写真や映画に対する考え方が変わるだろう。私は、難しい決定的瞬間を長年にわたって追求してきたが、その技がここで途絶することを歓迎したい。
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