2014年07月21日

「プラットフォームは商品に優越する」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "Platforms Trump Products" の日本語訳である。



プラットフォームは商品に優越する Platforms Trump Products

テクニウム(訳注:文明としての技術)における一般的な傾向として、商品の販売からサービスの販売への長期的な移行がある。ジェフ・ベゾスは、以前から、キンドルは商品ではなくて、読み物へのアクセスを販売するサービスだと言っている。この差異は、もうすぐアマゾンが電子書籍の「読み放題」プランを導入することで、さらに明白になるだろう。読者は、個別の本を購入する必要がなくなる。そのかわりに、ネットフリックスでの映画と同じように、あらゆる本(当初は60万点)を購読する権利を得る。有料会員は、(最終的には)紙の本も入手できるようになる。アマゾン・ブックスは、商品ではなくサービスである。名詞ではなく動詞なのだ。

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アマゾンのKindle Unlimited(キンドル・アンリミテッド)書籍購読サービスのテストページ

この移行において、サービスを販売する基本的な手段は、店舗(商品を販売するためのもの)ではなく、プラットフォームである。プラットフォームでは、自分が作ったのではないサービスも販売することができる。それは、自分が作ったのではない商品を店舗で販売できるのと同様である。サービスを販売したいと思う人が、プラットフォームを持っていなければ、プラットフォームを全部自分で作らなければならないが、それは割に合わない。

ジェフ・ベゾスは、アマゾンを方向転換して、他人が提供するサービスを販売するプラットフォームにした。アップル、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなどは、すべてプラットフォームになっている。これらの巨大企業は、自社のプラットフォームを活用するため、第三者である販売業者を巻き込んでいる。各社は広範囲にAPIを使っている。時には、プラットフォームはエコシステム(生態系)とも呼ばれる。なぜならば、本物の生態系と同じように、販売業者たちがある面では協力し、他の面では競合しているからである。たとえば、アマゾンは出版社から仕入れた新刊本を売っているし、古書店が構成する生態系を通じて安価な古本も売っている。古書店同士は互いに競い合っていて、出版社とも競合する。プラットフォームの役割は、参加者が協力するにしても競合するにしても、それぞれがお金儲け(付加価値を提供)できるようにすることだ。アマゾンは、それをうまくやっている。

ネットワーク経済では、プラットフォームは商品に優越する。消費者にとっては、これは次のように言い換えることができる。利用は所有に優越する。商品には所有が伴っている。しかし、サービスを「所有する」ということは、概念的に、あるいは実際的に、意味がない。会社が商品を販売するのではなく、サービスを販売しているのであれば、顧客が必要とするのは利用である。そして顧客は、所有よりも利用を好むようになりつつある(私の記事"Better Than Owing" [邦訳] 参照)。

昔からサービスに料金を払うときには、更新、改良、改訂など、終わりのない一連の流れが付随している。そこには、製作者から消費者に対する深い相互作用と絶え間ない結びつきが生まれる。そのような結びつきのために、顧客は商品(電話会社やケーブルテレビ会社)に専念し、永続的な品質が約束される。個別の商品が「サービス化」された最初の例は、ソフトウェアである。この形態はSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)と呼ばれる。SaaSの一例として、アドビ社は、今ではソフトウェアを日付とバージョンの決まった個別の製品としては販売していない。そのかわりに顧客は、Photoshop(フォトショップ)、InDesign(インデザイン)、Premiere(プレミア)というものに対して、すなわちサービスの総体に対して料金を支払う。登録しておけば、毎月の利用料を支払っている限り、自分のパソコンでは常に最新バージョンが動作する。この新しい方式では、ソフトウェアが自分の所有する商品だという考え方になじんでいた顧客の意識転換が必要である。

テレビ電話やソフトウェアは、その手始めである。今後数十年の間、XaaS(エックス・アズ・ア・サービス)が重要な動向となるだろう。Xは何でも良い。もしかすると、すべてのものかもしれない。特定の商品を買うのではなく、必要とする、あるいは希望する便益の利用権を得る。TaaS(運輸・アズ・ア・サービス)を考えてみよう。A地点からB地点へ移動するのに、まず、ロボットカーが自宅まで迎えに来て、高速鉄道の駅へ連れて行く。高速鉄道で目的とする地域に行き、そこで地下鉄に乗って、さらに別のロボットカーが最後の数マイルを運んでくれる。顧客は、この輸送プラットフォームの利用に対する毎月の料金を、民間企業や公的企業の連合体に対して支払う。他に考えられるXaaSを以下に示す。


食品・アズ・ア・サービス

健康・アズ・ア・サービス

衣類・アズ・ア・サービス

シェルター・アズ・ア・サービス

エンターテインメント・アズ・ア・サービス

バケーション・アズ・ア・サービス

学校・アズ・ア・サービス

ホテル・アズ・ア・サービス(Airbnb)

工具・アズ・ア・サービス(TechShop)

フィットネス・アズ・ア・サービス

玩具・アズ・ア・サービス


などなど。物理的な実体のある物であっても、デジタルであるかのように配送することもできる。





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posted by 七左衛門 at 21:24 | 翻訳