2008年08月10日

「1兆時間」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "A Trillion Hours" の日本語訳である。



1兆時間  A Trillion Hours

ウェブはずいぶん大きい。グーグルの研究者は自分たちがどれだけのページをインデックスに登録しているか言ってくれないが、最近、グーグルは同社のウェブ調査でウェブには1兆を超える独立したURLが存在することがわかったと発表した。何を独立したページとして数えるのか判断が難しい。なぜならばグーグルも説明しているとおり、たとえばウェブカレンダーのようなサイトでは、「次の日」のリンクをクリックすると無限個のページを生成することができるからだ。いちばん最初に公開されたウェブページは、1991年8月に作られた。だから私たちは(集団としての人間は)6200日の間に1兆ページを作ったことになる。

6000日前の1991年という昔に、---あるいは10年前の1998年でさえも--- こんなに早くウェブページが1兆もの数に達するとは誰も考えていなかったに違いない。さて、明らかな疑問は、誰がそれだけの費用を払うのか、そんなことをする時間が誰にあるのか、ということである。

1兆のページを作るのには、多くの時間がかかる。1ページを作るための調査、構成、デザイン、プログラミングに、控えめに見て平均1時間かかるとすれば、ウェブには少なくとも1兆時間の労働が含まれている。過去15年で消滅したウェブページもまた1兆あると考えて、たぶんその2倍の時間と言っても良いのだろうが --- まあ、それはやめておこう。

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1兆時間は1億1400万年である。もし一人の人間がウェブの作業をしていたとすると、現在の状態に至るためには、その人は白亜紀の昔から始めなければならない。しかし同時に作業するなら、1億1400万人が1年間不眠不休で働いて1兆のURLを作ったことになる。最も熱狂的なウェブ管理者でも時々は眠るのだから、作業時間を減らして1日あたり8時間、すなわち1日の3分の1とすれば、このウェブを作るために1億1400万人が3年間フルタイムで働いているわけだ。これは3億4200万 人年 の作業に等しい。

しかし私たちは15年でこの壮大な作品を築きあげたのだから、2280万人のウェブ作業者がこの15年間フルタイムで働いたことになる。一見すると、これは思ったよりずっと多そうである。

この莫大な仕事のかなりの部分は、無料で行われている。過去に私が計算したところでは、ウェブの40%が非商用目的で作られている。ただし、これには政府や非営利団体を含んでいて、そのような組織では作業者にお金を払っている。私は、ウェブの80%が報酬を受けて制作されていると推測する。(もし、もっと良い数字をご存じであれば、コメント欄に書いて欲しい。)そうすると、3億4200万 人年 の80%として、2億7300万 人年 の給料が払われたことになる。この給料はどれだけの値段なのだろうか?言い換えれば、現在のウェブの再取得原価はいくらか?もしもすべてのバックアップ・ハードドライブが消滅して、1兆ページのウェブを再構築しなければならないとしたら、その費用はいくらになるか?あるいは、また別の言い方をすれば、「一つのマシン」(訳注:地球上のネットや通信システム全体をあらわすケヴィン・ケリーの用語)の内容を作り直すのに要する費用はいくらか?

大特価で年俸2万ドルとして計算すると、その費用は5兆4千万ドルになる。この給料の額をもっと現実的なものにする必要があると考える人は、この数字に何らかの係数を掛けるなり割るなりすればよい。ウェブページのコンテンツを制作するのに要する時間は、平均して1時間より少ないかもしれないし、それより多いかもしれない。しかしこの数字の桁数は、ほぼ正解に近いと思う。

ウェブの最初の6千日で、私たちは1兆時間を投入して1兆ページを作った。さて、次の6千日で何が起こるだろうか?





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posted by 七左衛門 at 09:25 | 翻訳