2008年11月03日

「生き続けている古代の技術」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "Surprising Continuity of Ancient Technologies" の日本語訳である。



生き続けている古代の技術  Surprising Continuity of Ancient Technologies

私は数年ごとに新しいコンピューターを買っている。デジタルカメラはもっと早く買い換えている。デスクトップにあるソフトウェアは、ほぼ毎月自動的に更新されている。私の家の中には私自身より古いものはほとんどない。私たちは技術が次々入れ替わるのは当然だと考えている。自分の家の居間には最新技術が反映されていると思いがちだが、実はそれは間違っている。

古代の技術は驚くほど長続きしている。直感に反することだが、最新の技術による成果のおかげで、意外にも昔の古典的な手仕事が残っている。便利な電子機器、生産性の高い近代的農業、何百個もの衛星放送チャンネル、その他もろもろの現代生活のおかげで、私たちには昔の工芸を習う手段に加えて、習得するための自由時間も得られるようになった。ある専門家に聞いたところでは、今、現役で活動している刀鍛冶職人の数は、数百年前の刀鍛冶職人の数と同じなのだそうである。素人の熱意を後押しする余暇のせいだけでなく、全体の人口が多いために、(割合は減っていても)職人の総数は増えている。同じことが望遠鏡、キルト、ステンドグラスについても言える。これらを製作している人は、昔よりも今のほうが多い。私はその人数のデータを持っていないが(もしあれば、電子メールで知らせてほしい)、この説の証拠をさがす過程で、おそらく人類史上最古の技術を実践しているグループに遭遇した。それは石器作りである。すなわち、石で鏃(やじり)や矛先を作る技芸である。

驚いたことに、新しい石の鏃(やじり)が今でも非常に多く作られている。新石器時代の狩人と全く同じ方法で手作りしたものだ。この話の情報源は、"American Flintknappers, or Stone Age Art in the Computer Age"(アメリカの石器作り---コンピューター時代における石器時代の芸術)という本の著者、ジョン・ウィテカーである。ウィテカーは考古学者で、考古学的発見の年代を定めるのに使われる、有名なクロビス・ポイントなどの石鏃を研究している。ウィテカーの研究方法は、石器作りの技術を自分で再現してみることである。たくさんの石、皮の敷物、鹿の角を用意して、新しい石の鏃を作り始める。やがてクロビス・ポイントの複製を作ることができるようになる。彼一人だけではない。他にもアマチュアで石鏃を作る人たちのグループがいることを知った。何百人もの人が、活発に毎年数千個の石鏃を作っているということに彼は魅力を感じて興味を持った。

現代の石器作り職人の大部分は歴史マニアで、ウィテカーと同様に、鏃(やじり)をどうやって作るかという技術を理解することに興味を持っている。その他にサバイバル主義者がいる。この人たちは弓矢を一から自分で作る技能を身につけたいと思っている。たとえば割れたガラス瓶で鏃を作るのは、そんなに難しくない。さらにそれ以外には、石器作りが非常に上手で石鏃の複製品をよい値段で売ろうとしている人たちがいる。ウィテカーはこの最後のグループには警戒している。なぜならばその複製が非常にうまくできているからだ。このアマチュアたちは、石で思い通りの形の鏃を作る技能を持っている。あまりにも精巧で本物らしいので、鏃の専門家であるウィテカーでさえ、古い物と新しい物を見分けるのが難しいと言う。彼らがウィテカーをだませるのならば、イーベイの利用者をだますこともできる。イーベイでは常に40ページにわたって石の鏃が売りに出ている。石器作りをしている人の多くは誠実で、自分の作品を古代のものだと偽ったりはしないが、彼らから購入した仲介業者はそれほど信用できるとは限らない。重大な問題は、今使っている技術が大昔のものと全く同じだと思われることだ。

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ウィテカーは現代のアメリカで毎年作られる新しい鏃(やじり)の数を推定しようとした。石器作りの広報誌の発行部数や交流会の出席者数、ウィテカーが書いた石器作りに関する書籍の販売部数などから、現代において石器時代の鏃を作る人は5千人だと見積もった。週末の趣味だったり、学者だったり、また自分の作品を販売する「プロ」もいる。ウィテカーはその調査および他の概算などにもとづいて、この愛好家たちが1年に何個の鏃を作るか推定した。彼の大まかな推算では、なんと150万個になるという。

銃がもたらされる以前にアメリカで鏃(やじり)が何個くらい作られたのか、私はウィテカーに尋ねてみた。当時の北米の人口が3百万人から1千万人として、現役で働く猟師は百万人くらいだったと彼は推測する。一人の猟師が1年に何個の鏃を使うか計算するのはもっと難しい。ウィテカーは次のように言う。

1年に何個の鏃を使ったのか、民族学的な推測はわからない。200年以上の間に散発的に2〜4家族が住んでいた小さなシナグア遺跡では、私たちは261個の鏃を発見した。アリゾナ州中央部にあるプエブロ族の大きな遺跡、グラスホッパーでは、約100年にわたって約500人が住んでいて、その約5分の1を発掘したところ数百個の鏃を発見した。鏃の多くは森で紛失したり、あるいは物々交換したかもしれない。遊びのためとして計算するならば、一人の猟師が、週に1個の鏃を壊したり、紛失したり、交換したと仮定しよう。そうすると、合計で1年あたり5千万個になる。


というわけで、鏃(やじり)を作る人の数は現代のほうがはるかに少ない。しかし現代の石器作り職人は、その祖先よりもずっと生産性が高い。現代の鏃は道具というよりも芸術である。でも昔の生産方法が続いている。素敵な石のナイフに骨の把手がついたものが欲しければ、イーベイで50ドルで売っている。もともとは1万3千年前に作られた、新品のクロビス・ポイントが石器作りの大会(ナップ・イン)で売りに出ているのを見ると、実は石器時代は終わっていないということがわかる。

1970年代になるまで、パプア・ニューギニアのバリエム・バレーにいるダニ族は、黒い石から切り出した斧を使っていた。彼らは30年後の今でも観光客のために石斧を作っている。技術はしぶとく生き延びている。





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posted by 七左衛門 at 15:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | 翻訳    
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