訳 :堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "Recursive Generation" の日本語訳である。
反復する創造 Recursive Generation
1978年にダグラス・ホフスタッターは反復形式に関する驚くべき本を書いた。その本は『ゲーデル、エッシャー、バッハ』(邦訳)という。この題名は、反復性をこよなく愛する3人の天才にちなんでいる。ピューリッツァー賞を得たこの本は、システムの出力をそれ自身に戻すことによって、何か新しいものを生み出すという性質を探求する。『ゲーデル、エッシャー、バッハ』は、この「不思議の環」を機知と適度な遊び心に結びつけている。この分野の他の本でこれ以上ものが出現するとは想像できない。
テクニウム(訳注:文明としての技術。ケヴィン・ケリーの造語)は、これと同じ反復的な力によって形成されている。ホフスタッターが示したように、計算機プログラムは不思議の環と回帰の概念に基づいている。その最も極端な話が、ダメなプログラムに見られる悪名高い循環的「無限後退」である。生物学などの科学技術は、フィードバック(帰還)回路に支配されている。行ったり来たりしながら、技術は元の自分自身に戻って、不思議で奇妙な環としての影響力を生成する。そしてその不思議の環の中で、何か新しい力がテクニウムへ送り出される。このように反復的な循環性は、ブートストラップ(自力起動)や自己創造の原動力である。
進歩、知性、そして人生そのものも、すべて基本的水準においては、ブートストラップ、自己創造、オートポイエーシス、オートジェネシスで支えられている。これらはいずれも反復的構成を意味する言葉である。ペーター・ウィニワーター(Peter Winiwarter)の1986年の論文 "Autognosis (pdf)"(自己分析)で各種の自己構成の一覧を見つけた。
形式の形式。
寸法の寸法。
自然の法則を支配する自然の法則。
システムのシステム。
制御の制御。
階層の階層。
不思議な環の環。
意識の意識。
組織の組織。
進化の進化。
構造の構造。
証明の証明可能性。
創造の創造。
一見したところ、これらの用語は撞着的(自己矛盾)あるいは同語反復(無意味な繰り返し)のように思える。しかし、よく考えてみると、撞着的でも同語反復でもなくて、「ネットワークのネットワーク」がインターネットだと言っているのと同じことである。"Cosmic Jackpot: Why Our Universe Is Just Right for Life" (宇宙の大当たり:なぜこの世界は生命に最適なのか)という本の中で、ポール・デイヴィーズは宇宙の自然法則を支配する法則に関する彼の研究について述べている。先に示した多数のメタ形式(形式の形式)と同様に、その効力はどこに存在するのかという問題がある。それは循環の中にあるのか、それとも外にあるのか?140億年前に宇宙ができたとき、メタ法則(法則の法則)は宇宙の中にあったのか、それとも外にあったのか?自然法則を構成する法則が宇宙の外にあったとすれば、それは何を意味するのか?
すべてのシステムからなるシステム、あるいはすべての形式が従う形式、あるいは制御のための何らかの制御、すべての組織を組織化する方法があるはずだ。証明の構造は証明可能だろう。範疇の種類というものは何らかの範疇に該当するはずだ。
すべてのものにメタがあるのか?

さらに、メタのメタは?ヒンドゥー教の創造の塔では、宇宙を支える亀の下にそれを支える亀が次々といなければならないことになる、とウィリアム・ジェームズが言ったそうだ。これと同様に、メタの上にはメタが載っていてずっと上まで続いているのだろう。しかしこのような亀やメタの塔というのは、この累積を考える方法としては良くない。なぜならば、法則を形成する法則、さらにそれを形成する法則は、最後には最下位の法則で形成されることになってしまう。デイヴィーズが指摘しているように、実際には人間の観察が宇宙の法則を形成する。見通しのきく正しい地点から見れば、メタの循環はその上位のメタレベルを巻き込んで拡大しており、すべてのものはそれ自身の上に大きな循環として戻ってくる。
宇宙の最大と最小の両方の尺度において、いずれも量子力学が影響しているらしいという不可解さは、非常に大きな再帰的循環の現れである。
テクニウムにとってこれが意味するのは、見えない再帰的循環、生成的メタレベル、自己創造などがそこに組み込まれていればいるほど、テクニウムは人生や知性のような自己創造的システムで見られるのと同じように活性化されるということである。
さらにフィードバックが不思議で奇妙なものになるというまさにその時点で、何か重要なことが起こりうる。遺伝子が遺伝子を制御したり、法律が法律に命令したり、ソフトウェアがソフトウェアを書いたり、知性が知性を設計したりするような状況を人間は期待しているのだ。そのような不思議の環の中では、メタが飛躍する。
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