2009年01月24日

「クラウドのためのクラウドブック」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "A Cloudbook for the Cloud" の日本語訳である。



クラウドのためのクラウドブック  A Cloudbook for the Cloud

大転換の真っ最中である。計算というものが、自分のパソコンから「一つのマシン」(訳注:地球上のネットや通信システム全体)へ移行しようとしている。つい最近までは、最も興味深くて目に見える計算は私たちの目の前のパソコンで実行されていて、退屈な企業向け計算は大きなデータセンターで実行されていた。ところが、データセンターのサーバーは、しだいに高性能で高速で安価になり、パソコンにはない多くの便益を一般ユーザーに提供するようになっている。この新しい枠組みでは、自分のノートパソコンで仕事をするかわりに、他のマシンの「クラウド」を、通常はウェブという形で使うことになる。

クラウド・コンピューティングというと、集中型だと考えがちである。メインフレームのタイムシェアリングに逆戻りするのだという考え方すらある。しかし実際には、クラウドは遅れてやってきた大規模な並列計算である。計算は少しも集中化されてはいない。世界中のあちこちに存在する大量の(何万台もの)サーバーに分散して、大量のプログラムが並列的に実行されている。これとは異なる方法もあるが、グーグルによるマップリデュース(MapReduce)という並列アーキテクチャーは、有効な方式として今のところ主導権をとりつつある。

マップリデュース(Lisp(リスプ)の二つの関数から合成した名前)は、通信におけるパケット交換にいくらか似た働きをする。パケット交換 ―インターネット通信の重要な特徴である― では、メッセージは小さなまとまり(パケット)に分割されて、そのパケットはそれぞれが別々にネットワーク上の多くの異なる経路を通って送られる。最終目的地で各パケットを受信すると、それを合わせて全体を再構成する。もしもネットワークの一部が故障していて、一つ(またはそれ以上)のパケットが届かなければ、異なる経路に切り替えて、正しく届くまで送り直す。マップリデュースのアーキテクチャーでは、プログラムの面倒な仕事は、小さなまとまりごとに細分化される。そのまとまりはクラウドの各ノードに送られて、関与する全サーバーで計算する。ノードが停止していたり、計算ができなかったりすれば、そのまとまりを再割当して計算を完了させる。

この飛びかう断片をすべて把握することが、マップリデュースの役割である。このアルゴリズムの仕組みは、まず、初めて見る機能を中間的な部分に分割(マップ)する。これら機能の断片に対して膨大な回数をかけて並列処理し、それから、並列処理の結果を統合して一つにして(リデュース)、答えをクライアントに提示する。ここで驚くべきことは、マップリデュースそのものを全く知らない他人が定義して書いたソフトウェアの関数を、マップリデュースが分割したり統合したりすることである。

architecture.gif

マップリデュースはハドゥープ(Hadoop)のようなオープンソースの実装を生み出した。これはジャバで書かれていてリナックス上で実行される。アマゾンウェブサービスはすでにハドゥープを使ったサーバーのクラウドを利用する方法を提供している。ニューヨーク・タイムズの技術者は、同紙の何十万ページものPDFを、ハドゥープとアマゾン・クラウドを使って作成した。

最終的にはインタークラウド、すなわちクラウドのクラウドができるのだろう。このインタークラウドは、地球上のすべてのサーバー、および関係するクラウドブックで構成される「一つのマシン」の規模になるだろう。

クラウドを使う利点をいくつか挙げておこう。
(1) クラウドは信頼性が高い。今では、仕事でも日常生活でもすべて計算機を使うのだから、これは重要である。
(2) クラウドはバックアップを忘れない。
(3) クラウドは世界中のどの端末からでも24時間年中無休で利用できる。
(4) クラウドには無数のソフトがあり、無限の記憶容量がある。
(5) クラウドでは境目のない共有と協働が可能である。

今日のニューヨーク・タイムズにはIBMがクラウド市場に参入するという記事が掲載されていた。IBMはこの先導的取り組みをブルー・クラウド(Blue Cloud)と呼んでいる。同社は並列処理のクラウド・コンピューティングに適したサーバーとソフトウェアを販売するという。ソフトウェアはハドゥープによるものらしい。この話からすると、すべてのコンピューター・メーカーが大規模な転換をするということになるのかもしれない。ニューヨーク・タイムズは次のように報じている。

「ある意味では、クラウドはグリッド・ユーティリティー・コンピューティングから進んでいく自然な次の段階である。」と調査会社IDCのアナリスト、フランク・ジェンス氏は言った。


クラウドにつなぐための装置は、最小限のものでよい。たとえば、大規模なディスク記憶装置は必要ではない。ニューヨーク・タイムズの技術記者ジョン・マーコフは、取材旅行中にノートパソコンが壊れたとき、破れかぶれになって一時しのぎにクラウドブックを使ってみた。必要最小限の装備で、無線LANはあるがディスクはない。ジョンは次のように書いている

これで私が発見したのは、ネットワーク接続は必要だが、ディスクはなくても困らないということである。ウェブ・ブラウザーのファイアーフォックス、グーグルのGメール、ウェブ・ベースのワープロであるグーグル・ドックスなどを使えば、手許に記憶装置がなくても、まったく快適に出張中の仕事ができた。

ホテルの部屋と無線LANのあるロビーや会議室を行ったり来たりしながら、容易にネットに接続して、全く問題なく記事を書くことができた。それ以来、無線でウェブに接続可能な出張者用の超軽量携帯型機器が、なぜもっと出てこないのかと私は不思議に思うようになった。


ニック・カーは、パソコンからクラウドへの転換を意味する、"The Big Switch"(邦訳:「クラウド化する世界」)という本(この書名は私が書いた推薦文にピッタリだ)を書いた人だが、この機器のための素敵な名前を考えた。それは「クラウドブック」である。彼のブログには、クラウドブックに必要と考えられる特性の一覧表がある。彼の空想ではこれをアップルが設計して、グーグルのサーバーで実行するらしい。この機器には、まず第一に使い勝手の良い画面があって、強力な電池と無線LANが内蔵されているが、ディスクはない。カーが考えるクラウドブックの仕様の要点は以下の通り。

(1) 安価であること。99ドルから199ドル。記憶領域とソフトの使用料は個人用なら無料。業務用には月50ドル。
(2) エネルギー効率が良いこと。LEDバックライト、フラッシュドライブ、低電力チップを使用する。
(3) 丈夫であること。可動部品は少なくする。iPod nano(アイポッド・ナノ)を参考に。
(4) 移動に便利で融通が利くこと。同期や保存などの操作は不要。

でも、なぜアップルを待つ必要がある?現在、クラウドブックの候補として、少なくとも2機種が市販されている。まず台湾のeeePC(イーピーシー)がある。300ドルで頑丈で超軽量、無線LAN内蔵のモバイルノートだ。同じく台湾製で、ニコラス・ネグロポンテ氏が提唱する「子供一人に一台のラップトップ(One Laptop per Child)」のXOがある。これは丈夫で軽量、無線LAN内蔵でディスクなしのノートパソコンであり、価格は理論的にはたったの100ドルになるはずだが、最初のうちは約200ドルだという。今から2週間(訳注:2007年11月)、数量限定のXOがOLPC財団から次の条件で入手できる。400ドルを寄付すると、1台が自分に、1台が子供に渡される。

私は今、寄付をしたところだ。XOが届いたら使用感を報告しようと思う。





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posted by 七左衛門 at 22:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 翻訳    
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