著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "Humans Are the Sex Organs of Technology" の日本語訳である。
人類は技術の生殖器官である Humans Are the Sex Organs of Technology
技術には独自の計略があると私は考えている。技術全体が、すなわち私の用語では「テクニウム」が、自立的であるという証拠は何か?というのは、自立的でないものが独自の計略を持つことはあり得ないはずだからである。私の解答は、三部構成になっている。
まず第一に、あるシステムが生存し続けるために他のシステムに依存しているとしても、そのシステムは計略を持ちうると私は思う。人間の知性と人間の文化を考えてみよう。当然ながら、人間は動物であり、単なる進化の産物である。ほ乳類として、生物学の法則に従わなければならない。人間は、生体組織としての方向性に組み込まれている。私たちの肉体は呼吸し、新陳代謝し、交尾し、排泄し、最後に死ぬ。人間の身体の行動計画は、他の動物の身体と全く同じである。
しかし人間は他の動物と違っている、と主張することもできる。地球に対する影響がその証拠だと思う。他の動物とは違って、非常に大規模な構造物(都市)を作ることができる。シロアリの作る大きな塔やサンゴ虫の作るサンゴ礁などは、ニューヨークの超高層建築やコンクリートの岩礁と比べると、いかにも小さく見える。人間は地表を変形させ、他の生物種をはるかに超えた規模で他の生物種を排除してきた。単一の種ではできないほどの規模で、人間は気候に影響を与えている。そして言うまでもなく、人間は多くの新しい物体や「生命体」 を作った。他の生物にはできなかったことである。明らかに、人間は独自の計略を持っている。これは生物界では他に見られないものだ。
でも、あらゆる動物の生命が(人間という動物も含めて)死に絶えてしまったら、人間の知性と人間の文化も死ぬだろう。人間の知性は動物の生命というシステムに依存している。それならば、一般的な考えでは、人間の知性は自分自身の計略を持つことはないはずだった。でも実際には持っている。それはなぜか?人間の文化の自立性は、たとえそれが動物の生命に「依存して」いるとしても、動物の生命とは別の領域で働いているからである。同様に、テクニウムの自立性は、それが人間の生命に依存しているとしても、人間の生命とは別の水準で働いている。
第二に、技術はまだ若い。「技術(テクノロジー)」という概念は、1829年以前には生まれていなかった。いま私たちが技術と呼んでいるものの大部分は、この百年のうちに地上に出現したのである。2歳の幼児が両親に依存しているとしても、私たちはその子が「自立的」に生きていると考える。子どもたちは最後には私たちから離れて、自らが自立的な親になるとわかっている。子どもである間は、子どもたちは独自の計略を持っているにもかかわらず、私たちを必要としている。技術は人間の子どもである。人間として、私たちはすべての技術の親であり、技術を養育し、技術が自力で生きていけるように訓練している。
第三に、最終的には、技術は今よりもはるかに自立的になるだろう。現時点では、人間は、テクニウムの親であるだけでなく、技術の生殖器官でもある。技術の立場から見れば、人間は技術を再生産する、得体の知れない歩く器官である。技術は自分自身で働くことはできるかもしれないが、再生産するためには人間の力が必要である。この状況はすでに変わりつつある。今日では世界中で、多くのコンピューター・チップは、部分的には他のコンピューター・チップによって設計されている。多くのロボット装置は、部分的には他のロボット装置によって製造されている。チップやロボットを改良していけば、いつかある時点で、コンピューター・チップが他のコンピューター・チップ全体を設計し、ロボットシステムが他のロボットシステム全体を製造するようになると考えても無理はない。そして、その次の段階は必然だろう。技術は自分自身で再生産するようになる。
今のところは、自立的に再生できる技術が存在せず、自立的に持続可能な技術が存在しないことは、認めざるを得ない。そのかわりに私たちには、幼いテクニウムがいる。それは幼児と同じように、自分の欲求を持っている。幼い子どもであっても、自分の欲望や要求を満たすように両親を誘導する。幼児はその弱い力を使って、成長するための資源(食物、注目、同意など)を得ている。十分に距離を置いて見れば、技術には、より多くの技術が成長するのに適した環境を作ろうとする傾向があることがわかる。技術を増やすのが難しくなる方向に進むことはめったにない。テクニウムはテクニウムを拡張するように調整されている。技術は、その親であり生殖器官である人間を調教している。技術は人間をより豊かにし、余暇を増やし、その結果としてさらに技術を増やしている。人間が多くの技術を生み出せば、それをすべて維持するためには、より多くの技術を生み出す必要がある。この正帰還の回路は、まさしく自己保存のための方策であり、独自の計略を持っているシステムが作り出すものである。
現時点では、技術は人間の援助なしには自分自身を再生産することができない。しかし、技術はより複雑で賢いものに発展し、成長しつつある。さらに重要なことは、テクニウムは毎日、より速く進化しているのだ。技術が人間に依存する一方で、人間はますます技術に依存している。子どもと同じように、技術は自分自身の要求を持っている。今のところ人類全体としては、技術という子どもがいることさえも認めていないが。
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