2010年04月11日

「シャーキーの法則」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "The Shirky Principle" の日本語訳である。



シャーキーの法則  The Shirky Principle

「組織は自分自身がその解決策となるべき問題を維持しようとする。」―― クレイ・シャーキー

この意見はすばらしいと思う。これを見て、私は明解なピーターの法則を思い出した。それは、組織にいる人間はその人が無能になる段階まで昇進する、というものである。その段階になると、その人は過去の業績のおかげで解雇されることはないが、それ以上昇進できなくなって、その無能な状態で滞留する。

シャーキーの法則が述べるところは、複雑な解決策(たとえば会社、あるいは産業など)は、その解決しようとする問題に専念しているために、気づかないうちにその問題を永続させようとする場合が多いということである。

たとえば、労働組合を考えてみよう。労働組合というものは、資本を持たない労働者を搾取する傾向のある経営資本の問題に対するすばらしい解決策であった。しかし、時間の経過とともに資本の複雑度が増大してくると、組合も同様に複雑化してきて、ついには組合が経営を必要とするようになった。この二つが合わさって労使協調という一つの体制になった。したがって、今の労働組合の問題は、古い枠組み、古い体制に閉じこもっていることである。組合はそれが解決策となるべき問題(経営)を無意識のうちに永続させようとしている。なぜならば、組合が存在する限り、会社はそれに対抗するための経営が必要だと考えて、両者は共依存の関係になる。要するに、問題と解決策は一つの体制になる傾向がある。

すばらしい著書 "The Innovator's Dilemma"(邦訳『イノベーションのジレンマ』)で、クレイ・クリスチャンセンが実証しているように、破壊力のある技術は、たいてい産業の周縁部分から生まれる。すなわち、そのような技術は、とるに足りない、あるいはおもちゃのような解決策として発生している。ホンダの趣味的な原動機付自転車は、四大自動車会社には全く脅威ではなかった。ただし、その原動機付自転車がオートバイになり、さらにオートバイが小型高効率の自動車になるまでの間だけであるが。また、安くて粗いドットマトリクスプリンターは、大手オフセット印刷会社には全く脅威ではなかった。しかしそれは、ドットマトリクスプリンターがインクジェットプリンターになり、さらにインクジェットプリンターがHP(ヒューレット=パッカード)インディゴ5000オンデマンドプリンターになるまでのことである。いずれの場合でも、解決策は最初は周縁部にあって、かろうじて動く程度のものであったので無視された。クレイ・シャーキーが指摘しているのは、多くの問題も同様に、最初は周辺的なものであるために無視されている、ということだと思う。地位の確立した産業は、確立した問題に注力しようとするのである。

シャーキーは、最近の講演で自身の著書から引用している。近々出版予定の "Cognitive Surplus"(思考の余剰)という本の一部である。また、最近のブログ投稿でも同じような考えに言及している。その記事では、次のような内容を述べている。メディア企業や報道業界は、その体質として変革する能力がないことが多い。なぜならば、彼らは今でもまだ最後の問題を解決しようとしているからである。

はっきり言えば、人間は、その人が解決しようとしている問題によって規定される。陰と陽、問題と解決策、二つの側面が一つのものを構成する。シャーキーの法則、すなわち、あらゆる実在物は自分が解決しようとしている問題を長引かせようとするという法則によれば、状況を進展させるためには、その問題をいったん忘れたほうが良い場合がある。そうすると周縁部の解決策が見えてきて、今どの周辺的な問題を解決しようとしているか、その問題は後で役に立つものであるか、ということを自問できるようになる。





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posted by 七左衛門 at 11:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | 翻訳    
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