訳 :堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "The Evolution of Evolution's Evolution" の日本語訳である。
進化の進化が進化する The Evolution of Evolution's Evolution
進化の進化だって?この言葉は、重度の意味不明語のようにも思える。一見したところ、進化の進化というのは、自家撞着(矛盾した表現)あるいは同語反復(不必要な繰り返し)だと思うかもしれない。しかし、よく考えてみると、インターネットのことをネットワークのネットワークと言うのと同じようなもので、進化の進化は自家撞着でも同語反復でもない。
他の遺伝子を制御する遺伝子とか、他のソフトウェアを統括するソフトウェアというものが、きっと存在するはずだ。すべてのシステムから成るシステム、すべての形式が従う形式、制御に対する制御、あるいは、すべての組織を組織化する方法などがあるにちがいない。証明の構造は証明可能であり、分類の種別は何らかの分類に該当する。
また、法律を改正するための法律がある。進化の進化とは、メタ規則と同類だと考えることができる。矛盾を含みながらも驚くべき威力を持つメタ規則について説明するために、合衆国憲法第5条を検討してみよう。

人間が生活している所では、必ず人々は規則を作る。誰が最初に畑に水を取り入れるか、土地の境界に関する紛争をどのように解決するか、どれだけの速度で自動車を運転してもよいか、という規則を作る。さらに社会が大きくなると、規則を決める手続きを規定するために、異なる次元の規則が必要になる。この高い次元の法律すなわちメタ規則は、憲法と呼ばれるもので、通常の法律の枠組みを決める。憲法は法律の限界を明らかにし、複数の矛盾する法律を調整し、法律の背後に存在する法的権限を規定する。古代ローマ人やインドのアショカ王は、紀元前400年頃に最初の憲法を発明した。
憲法の長所は、法律に安定性をもたらすことである。憲法の短所は、その一連の規定が永続的であるために、時間が経過するにしたがって、それを承認したのではない世代の人々までも支配することである。状況は変化するものであり、もし憲法がそれに合わせて変化しないならば、新しい世代に対する権威は減退する。この問題の解決策は、憲法改正条項である。憲法を制定するときに、憲法を改正するための規定を入れておくのだ。
合衆国憲法にはそのような条項、第5条がある。第5条は一つの短い条文で、憲法の他の条項を改正するための手続き、また、憲法のどの部分を改正することができないかを規定している。それによると、改正には4分の3以上の州の批准が必要である。
憲法が進化するというのは、すばらしい発明である。法律を使って法律を改正する仕組みは、1682年にウィリアム・ペンが最初に考案したものである。彼が書いた最初の自由憲章に取り入れられて、その後1776年のペンシルベニア州憲法に組み込まれた。この考え方は他の州憲法にも広まり、最終的には1787年の合衆国憲法に採用された。
法律を改正する方法を法律として成文化するという考え方は、一種の再帰的反復である。その奇妙な循環性は、改正条項を改正するという展開を考えてみると鮮明になる。それは、法律に変更を加えるための法律を変更する法律だ。その矛盾する性質を即座に感じることができる。改正条項は、それ自体を変更してはならないと宣言してもよいのか?いかなる規則も変更可能である、ただしこの規則を除く、と言っているみたいなものか。この種の論理を理解しようとすると、すぐにそのことに気づく。それは自己分析的(自分を知っている)であり、再帰的循環であるから、自分自身を改正する法律は必然的に矛盾に満ちている。
憲法それ自体を改正する条文のことを、哲学ではメタ規則と言う。規則を統制する規則ということである。より高い段階の組織へ移行するときには、必ず矛盾と能力の両方が発生する。憲法の改正条項を改正することを検討していると、きわめて陶酔感がある。変更のための規則を変更するということは、物の仕組みを大幅に変えられるからである。第5条を改正しようとして否決された議案が、今までに11件存在する(不思議なことに、すべて1978年から1982年の間に提案されている)。その大部分は、憲法改正案を可決するための基準を変更しようとしたものである。ある学派の見解では(私はそれに賛成だが)、年月が経過しても憲法の権威を保持するためには、憲法改正の難しさは、最初に憲法を制定したとき以上でも以下でもないものであるべきだという。
2010年の時点では、合衆国憲法を改正するための規定は改正されてはいない。しかし自己改正条項の矛盾的性質を研究しているピーター・スーバーによると、合衆国50州のうち47州では、いずれかの時点において州憲法の改正条項を改正したことがある。これらの州では、変化が起こる方法を変えるという無限ゲームの第1試合がすでに実施されたのだ。
生命の進化における進化の進化というのも、改正条項の改正と同じゲームである。より複雑になり変化を加速するブートストラップ(自分で自分を引き上げる)の方法である。技術は進化の憲法第5条である。技術のおかげで進化の法則は変化しつつある。
技術を考えるとき、私たちは配管やら点滅する表示灯やらが目に浮かぶ。しかし、長期的観点から見ると、技術は進化の進化を進化させるものにほかならない。
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