著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "A New Way of Reading" の日本語訳である。
新しい読書の方法 A New Way of Reading
スミソニアン・マガジンの2010年8月号(40周年記念号)に私は記事を書いている。この雑誌では未来の展望を40人に依頼した。私は読書の未来について書いたところ、"Reading in a Whole New Way"(全く新しい読書の方法)という題名で掲載された。
その抜粋を以下に示す。
それを読むのに必要なものは目だけではない。本を読んでいるときに最も活発な身体の動きは、ページをめくること、あるいはページの隅を折り曲げて目印を作る程度である。しかし、画面を読む場合には、人間の身体を必要とする。タッチスクリーンは、絶え間なく指の接触に反応する。ゲームの操作器、たとえばニンテンドーWii(ウィー)などは、人間の手や腕の動きを追跡する。人間は見ているものに合わせて行動する。やがて、画面が人間の目に追従して、どこを見ているかを認識するようになるだろう。私たちが何にどれだけ注意を向けているか、画面が知っている。未来的な映画『マイノリティ・リポート』(2002)では、トム・クルーズが演じる人物が、まわりを取り囲む大画面の前に立って、交響曲の指揮者のような身ぶりで、広大な情報保管庫の資料を捜しまわる。読むことがほとんど運動競技のようになる。5世紀ほど前には、声を出さずに黙って読んでいる人を見ると変だと思われたのと同じように、将来は、身体を動かさずに読むのは変だと思われるのだろう。
本はじっくりと考える知性を育成するのに適していた。画面の場合は、もっと実用的な思考を促進する。新しい発想、あるいはよく知らない事実があると、反射的に何かの行動を誘発する。たとえば、その用語を調査するとか、画面上の「友人」に意見を求める、別の見解をさがす、ブックマークを設定する、それをツイートするなど、物事について熟考するだけではない。本を読むという作業では、全体を脚注に至るまで観察することによって、私たちの分析能力を強化してきた。画面を読むという作業は、毎日発生する何千もの新しい発想を処理することを可能にして、迅速なパターン認識や、種々の見解の関連づけなどを促進する。画面は実時間で即時に考えることを推奨し助長する。映画を見ながら批評したり、議論の途中で不明瞭なことを思いついたり、店舗で見つけた電子機器を購入する前にその取扱説明書を読んだりする。購入して帰宅した後、目的の用途に使えないと気づくことはなくなる。
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