2010年09月11日

「発明は同時に生まれる」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "Simultaneous Invention" の日本語訳である。



発明は同時に生まれる  Simultaneous Invention

雑誌ニューヨーカーに掲載された、ネイサン・ミアボルドの発明工場に関する記事で、マルコム・グラッドウェルが科学史研究者の研究成果を紹介している。それによれば、同時発明はよくあることだという。どの時代にも、発明は同時になされている。大発明でもそうだ。過去にも現在にも、そして異なる文化においても、これは真実である。グラッドウェルは次のように書いている。


主要な科学的発見のうち、重複型に当てはまるものが148件あった。ニュートンとライプニッツは、いずれも微積分を発見した。チャールズ・ダーウィンとアルフレッド・ラッセル・ウォレスの二人は、進化を発見した。3人の数学者が小数を「発明」した。酸素はウィルトシャーのジョゼフ・プリーストリーが1774年に発見したが、さらに、その前年にウプサラのカール・ヴィルヘルム・シェーレが発見している。カラー写真は、フランスでシャルル・クロとルイ・デュコ・デュ・. オーロンによって同時に発明された。対数は英国のジョン・ネイピアとヘンリー・ブリッグス、それにスイスのヨスト・ビュルギが考案した。「太陽黒点については、4件の独立な発見がすべて1611年になされている。すなわち、イタリアのガリレオ、ドイツのシャイナー、オランダのファブリツィウス、英国のハリオットである。」とオグバーンとトマスは述べ、さらに、次のように続けている。

エネルギー保存の法則は、科学および哲学において非常に重要なものであるが、これは1847年に独立な4件の考案があり、ジュール、トムソン、コールディング、ヘルムホルツによるものである。また、それはロベルト・マイヤーが1842年に予想していた。温度計については、少なくとも6人の異なる発明者がいると思われ、望遠鏡の発明では9人以上の権利者がいるという。タイプライターは、英国と米国でそれぞれ数人の個人が同時に発明した。蒸気船はフルトン、ジュフロワ、ラムゼー、スティーヴンス、サイミントンの、それぞれ「独自の」発明だと言われている。



ネイサン・ミアボルドは、インテレクチュアル・ベンチャーズ(Intellectual Ventures)という会社を経営している。それは要するに特許取得機械である。主要な従業員は特許専門の弁護士と事務員で、毎年約500件の特許を取得している。革新的な思考のできる人たちの緩やかな集団がこの特許群を生み出す。この人たちの仕事は、何もせずにじっと座っていて目新しい着想を出すことだ。ネイサンはこのような賢い人々を雇って、特定分野の専門家とブレインストーミングをさせている。たとえば、外科医の集まる小さな会議にそのような集団を送り込む。物理学者と医師が新しい医療機器について突飛な発想で議論をするとどうなるかを見守る。彼らはその発明品を実際に動作させるために努力するわけではない。そのかわりに、特許を得るのに十分な書類を作る。それがすでに出願されていなければ、であるが。

問題なのは、たいていの場合には、すでに特許が存在するということだ。新しい大発明を思いつくのは難しくない。実際にそれは容易なことであって、多くのすばらしい大発明は複数の人が同時に発見している。だからこそ特許庁がある。優れた発想は「空中に」漂っているのだから、優先順位を決める必要があるということだ。

グラッドウェルの記事は、いつものようにすばらしいのだが、その記事に書いていないことがあって、なんとも不可解である。ミアボルドのインテレクチュアル・ベンチャーズと全く同じことをしている他の人について少しも述べていない。たとえば、プライスライン(Priceline)で有名なジェイ・ウォーカーに言及していない。ウォーカーは、ウォーカー・デジタルという研究所を経営している。それは、まさにインテレクチュアル・ベンチャーズと同じことをしている。その研究所では、大勢の興味深い人たちが特許専門の弁護士と一緒に何もせずに座っていて、次々と発明を思いつく。その発明について、ものすごい勢いで特許を取る。そして、それを他人に実施許諾して開発させる。これが彼らの組織のビジネスモデルの全てであり、まったくインテレクチュアル・ベンチャーズと同様だ。

しかし、グラッドウェルの記事では、特許発明を主要製品として大量生産している組織が他にもあるという気配さえも書かれていない。その欠落が非常に不可解だという理由を説明しよう。ミアボルドの発想がすばらしいものであるならば、グラッドウェルが正しく推論した通り、他人が同時に同じすばらしい発想を思いつくはずである。この記事の論理に従えば、他の人がいなければならない。そして、実際にいるのだ!

ミアボルドと同様に、実際の研究開発なしに発明を生産するという着想を得た他人がいると認識することは、この同時発明に関するすばらしい紹介記事の結論にふさわしいものであったはずだ。グラッドウェルにしては珍しい失敗である。





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posted by 七左衛門 at 10:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | 翻訳    
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