2011年10月26日

「検索にお金を払うとしたら?」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "Would You Pay For Search?" の日本語訳である。



検索にお金を払うとしたら?  Would You Pay For Search?

もしも検索が無料ではないとすれば、あなたはいくら払うだろうか? どこか別の世界に、あるいは未来のある時点にいるものとして、検索が無料ではないと考えてみよう。グーグル、ビング、その他何でも利用料金を支払う必要がある。いくらであれば払っても良いと思うか?

私は、年間500ドルまでなら払う。検索は私にとってそれほど重要なものだ。あなたはどうだろうか?

昨年、ミシガン大学の3人の研究者が小規模な実験をして、普通の人は検索にどれだけお金を払うかを調べようとした。その方法は次の通りである。グーグルで検索したのと同じ質問を、豊富な蔵書を持つ大学図書館の中で学生に尋ねる。ただし、図書館にある資料だけを使って回答を見つけなければならない。用意した質問に対して学生がどれだけの時間で答えられるかを計測する。平均は22分だった。同じ質問にグーグルを使って答えた場合の平均は7分なので、それより15分長い。米国の平均賃金を1時間22ドルとして計算すると、検索1件につき1ドル37セント節約できることになる。

何ヶ月か前に、グーグルのチーフエコノミストであるハル・ヴァリアンが、この最終方程式に重要な事実を追加した。ウェブ2.0に関する講演でヴァリアンが述べたところでは、グーグルの普通の利用者は(返ってきたクッキーなどから判断して)平均して1日に1回しか検索しないという。もちろん私はそうではない。しかし、ほぼ常時ググっている私のような状態を相殺する人がいる。たとえば私の母は、数週間に1回しか検索しないだろう。今は質問が安価なのでより多く質問するという事実を補正するために、ヴァリアンはもう少し計算をしている。ヴァリアンによれば、この効果を織り込むと普通の人の場合1日に3.75分の節約になる。したがって、無料の検索の価値は、1年で約500ドルだと計算できる。ごく大雑把に言って、1日1ドルと考えても良いだろう。

もし有料になったとしたら、多くの人が検索に1日1ドル払うだろうか? たぶん払う。1回の検索に1ドル払う、と言っても同じことだ。

他の無料サービスについても、同じ質問をすることができる。もし無料でないとすれば、ウィキペディアにいくら払うだろうか? ウィキペディアの項目は、グーグル検索の最上位に出てくることが多いので、これについて先の質問から解明することは難しい。しかし理屈の上では、ウィキペディアを利用するために、少なくともニューヨークタイムズやエコノミストの購読料、すなわち年間で何百ドル、あるいは1ヶ月あたり15ドル程度の金額を払っても良いと私は思う。ウィキペディアを使わずに質問に答えるのに要する時間を調べれば、その価格を検証することができる。

グーグルマップ、イェルプ(訳注:米国のレストラン紹介サイト)なども同様。他の手段で同じ便益を得るために、どれだけの時間がかかるか? 私の場合、1日当たり何時間もの節約になるだろう。その差が大きすぎるので、他の手段でしなければならないとすれば、もうやめてしまっても良いくらいだ。

これは無料のウェブによる素晴らしい贈り物である。ある種のもの、例えば、質問の回答、百科事典の解説、経路案内、天気予報、推奨情報などを安価で入手できるようになったので、それを非常に多く実行することで全く新しい行動の世界を作り出している。数の多さが違いを生む。今までよりも多くの質問をすると、質疑応答は全く違うものになる。検索エンジンの出現以前は、私たちの疑問は一体どうなっていたのか、不思議に思ったことはないだろうか? 当時は、わざわざ質問したりしなかったのだ。

今では、分刻みで質問している。1億3千万人のグーグル利用者が節約できた時間を掛け合わせて、ヴァリアンは、この新しい行動の再取得原価(グーグルなしで行動した場合)の合計を計算した。その結果は1年あたり650億ドルになった。ヴァリアンはこの650億ドルをグーグルによる付加価値だと言っている。

しかし、いつかそのうち、グーグルがこの付加価値の一部または全部を取り込もうとしたらどうなるだろうか。グーグル、マイクロソフト、ヤフー、イェルプが、サービスに課金し始めたらどうなるか。利用者は、約650億ドル支払うことを余儀なくされる。1日当たり1ドルの贈り物の一部について、お金を払わなければならない。

無料の選択 (ZPO : zero-price option) がなくなることはないと思う。おそらく、広告またはそれと同様の手段で注目をさえぎることによって、その選択は常に存在するだろう。しかし、有料の検索(たぶん無料版よりもずっと良いもの)が、将来は選択肢の一つになると私は推測している。そして、私の予測では、有料検索の価格(有料のウィキペディア、有料のマップ、有料の推奨情報など)は、その再取得原価、すなわち1日当たり約1ドルに近いものになると思う。

追記: 経済学者のマイケル・コックスが学生たちに質問したところ、百万ドルもらってもインターネットを手放さないという結果だったと報告している。





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posted by 七左衛門 at 22:16 | 翻訳