2012年02月19日

「ソーシャルメディアの幽霊会員たち」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "The Ciphers of Social Media" の日本語訳である。



ソーシャルメディアの幽霊会員たち  The Ciphers of Social Media

私のサークルにいるこの人たちは誰なのか?

Screen Shot 2012-02-13 at 3.46.26 PM.jpg

驚いたことに、56万強の人たちがGoogle+(グーグルプラス)で私をサークルに入れている。すなわち、50万以上の見知らぬ人がGoogle+で私の話を聞きたがっているということだ。この集団の人数は、私が編集していた頃の雑誌「ワイアード」の読者数よりもはるかに多い。

この50万人はどこから来たのか? そして、何者なのか? それが気になる理由は、この人たちが大量のスパム(迷惑投稿)をコメントとして投稿し始めたからである。読者諸兄姉がこのスパムを見ることはほとんどない。グーグルはみごとな仕事でスパムを隠していて、読者には見えなくなっている。しかし、私本人から見ると、隠されたスパムは灰色で表示される。その投稿が正当であれば元に戻せるようになっているが、そうなったのは今のところ一度だけである。それ以外は、いつもグーグルがうまく的確にスパムを隠してくれている。

それでも、これだけのスパムがあるせいで、私は疑問を持つに至った。私のサークルに何人のスパマー(迷惑投稿者)がいるのか?

調査助手のカミール・クルーティエに手伝ってもらって、私の膨大なサークルから無作為に抽出してどんな人がいるかを調べた。その結果と、そこに至る過程を紹介しよう。

結果:Google+で私をフォローしている50万人の大部分は、幽霊会員である。利用者登録はしているが、公開の投稿を一件もしていなかったり、顔写真や自己紹介を掲載していなかったり、あるいはコメントを投稿していない。その人たちはGoogle+のホームにはいない。彼らが存在しているのは、100人の「友だち候補」に従ってフォローした小さな集団の中だけであり、その一人が私である。

そういうわけで、私をフォローする人が50万人もいるのだ。私のファンが50万人いるのではなくて、みんながGoogle+に最初に参加したとき、空っぽの街を埋めるためのリストに私が載っているからである。

カミールは、私のサークルの5千人すなわち1%をざっと見て、さらにその中から5%を取り出して詳しく調査した。したがって、この非常に小さな標本抽出には統計的有意性があるとは言えないが、何かの手がかりにはなるだろう。(詳細に分析したグーグルのスプレッドシートを見たければ、ここにある。)

その人をサークルに入れている人の数
Have-them-in-circles.jpg
このグラフは、その人をサークルに入れている人数に対して、(標本中で)私のフォロワー(私をフォローしている人)の数を示すものである。


その人のサークルにいる人の数
In-their-circles.jpg
このグラフは、その人がフォローしている人数に対して、私のフォロワーの人数を示す。フォローしている相手の大部分は、推奨された「有名人」である。

この調査でわかったことは、Google+利用者のうち公開の活動をしているのは、わずか30%にすぎないということである。そして6%が明らかにスパマーである。スパム発生率が低いというのは良い情報である。(上述の通り、グーグルは手際よくスパムを排除している。)しかし、悪い情報もあって、Google+利用者の大部分は幽霊会員である。そこにいない。幻なのだ。36%の人は自己紹介さえも書いていない。さて、この幽霊会員たちは、それぞれ自分のストリームで非公開の投稿を活発にしているという可能性もある。しかし、この人たちの自己紹介を見た印象では、そうだとは思えない。

この大いなる真空が存在するのは、私をフォローする人数が推奨機構によって人為的に膨張しているのが原因であることに注意しなければならない。推奨リストに登場しない大部分の通常のGoogle+利用者では、もっと有機的な広がりのある人たちがフォローしていて、幽霊会員も少ない場合が多いと思う。

これと同じ幽霊会員現象は、フォローすべき人の推奨リストを新規加入者に提示しているツイッターでも指摘されている。そのような人のサークルは、幽霊会員とボット(自動投稿)で膨張している。雑誌「ポピュラー・メカニクス」の二人の記者が、ツイッターで自分をフォローしている千人について手作業で調べた。その分析結果の一部を示す。

実在の人:24.6%

正当な企業または団体:14%

偽物またはスパム:48.6%

不明:12.8%


すなわち、この人の場合、ツイッターでのフォロワーの半分以上が幽霊会員である。

こればピークアナリティクス(PeakAnalytics)でも確認されていて、フォロワーが多いほど幽霊会員の割合が高いという調査結果がある。大統領候補のニュート・ギングリッチは、130万人のフォロワーがいると主張している。しかし、昨年の8月にインディアナ大学の研究グループが2012年大統領候補の一部について分析したところによれば、ギングリッチをフォローする130万のツイッター利用者のうち、76%には自己紹介の記述がなかった。それがすべて偽物やボットだと断定できるわけではないが、幽霊会員であることは確かだ。

Screen Shot 2012-02-13 at 3.36.11 PM.jpg
この表はCenter for Complex Networks and Systems Researchによる記事"Profile of the 2012 Presidential Candidates’ Twitter Followers"から引用。

ビッグデータの魔術師グーグルは、Google+にいる誰が何者であるかをきわめて詳細に知っている。行動、リンク、つながりなどから、あるいはその欠如から、グーグルはその人が実在するかしないかを見分けることができる。幽霊会員はスパマーとは違って良性の問題である。幽霊会員の多くは実在の人物であって、今は活動していないが、後で活動するのかもしれない。活動しないことによって、誰にも害を与えていない。しかし、その人たちが存在すると思っている企業にとっては、失敗体験なのかもしれない。

幽霊会員問題から得られる主要な教訓は、ソーシャルメディアにおいては大きい数に注意しなければならないということである。数が大きければ大きいほど、ますますつかみどころがなくなる。実在の人であってもなくても、その人たちは、そこにいない。





Creative Commons License

この作品は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
posted by 七左衛門 at 21:21 | 翻訳