著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "Fixity vs Fluidity" の日本語訳である。
不変性と流動性 Fixity vs Fluidity
ニック・カーは、伝統的な紙の本における活字の不変性について、自分のブログで詳しく述べている。その記事では、大きくて分厚くて重い紙の本の魅力を余すところなく説明している。
カーが列挙している「四つの不変性」について、私なりに要約してみよう。
ページの不変性:ページは同じままである。いつ本を手に取っても同じである。それは信頼できるし、確信を持って参照したり引用したりできる。
版の不変性:どこでどの本を手に取っても同じである。したがって、一定の内容を共有することができる。同じ版であれば常に同じである。
物体の不変性:紙の本は非常に長持ちする。年月を経てもその文章は変わらない。
完全性の感覚:最終形であり完結しているという感覚が、文献の魅力の一部になる。
ここに挙げたものは、実質的で非常に魅力的な特質である。電子書籍、少なくとも今私たちが見ているような電子書籍ではこの特質の一部が失われる、とカーが言うのは全くその通りだ。さらに、私たちはその喪失を残念に思うだろうということ、また、買ったり書いたりする本の種類を選ぶにあたっては、その喪失に留意すべきだという指摘も正しい。
ところでニック・カーは、これに対応する電子書籍の長所と短所を提示していないのだが、電子書籍には「四つの流動性」が考えられる。
ページの流動性:いつでもどこでも、どんなスペースにも、流し込んで適合することができる。
版の流動性:段階的に訂正したり改善したりできる。
内容物の流動性:「無料」と言えるほど安い費用でクラウドに保管し、常に新しい記憶媒体に「移動」させることができる。
成長の感覚:電子書籍の未完成感(少なくとも理想として)は、石ではなく生命に似ていて、創作者および読者としての人間に活力を与える。
これは利点の一部である。このような流動性は、失われる不変性を補って余りあるものだろうか?
最後に、この二つの性質、すなわち不変性と流動性は、それぞれ、紙および電子という二つの技術によって推進されている。紙は不変性に有利であり、電子は流動性に有利である。文章のための他の技術、すなわち第三の方法を発明することを妨げるものは何もない。それは紙と電子の「中間」的なもの、あるいは前者の特質の一部と後者の特質の一部を持つものかもしれない。両者は二者択一的な性質ではないし、また、両極端だけに限られるものでもないと私は確信している。不変性を持つ電子書籍、固体の電子書籍、あるいは不変性と流動性の中間的な粘性のある文章、などを発明することができるかもしれない。
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