2012年06月08日

「画面表示する」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "Screening" の日本語訳である。



画面表示する  Screening

近い将来、私の一日はこんな感じになるだろう。

朝、まだベッドにいるうちから画面表示することを始める。とりあえず、枕の近くにある画面を確認する。それは目覚まし時計でもある。どんなニュースが流れているかを見る。友人からのメッセージを小さなパネルに画面表示する。メッセージを親指でこすって消す。洗面所へ行く。新しい美術作品を壁に画面表示する。昨日よりも陽気で明るいものにしておく。服を着替えて、タンスの中の衣類を画面表示する。その画面では、このシャツには赤いスカーフが似合うと言っている。

台所で新聞全体を画面表示する。私はテーブル上の水平画面が気に入っている。腕を振って文字の流れを指示する。戸棚の画面のほうに身体を向けて、好みの朝食用シリアルをさがす。冷蔵庫の上に浮かんでいる画面では、新しい牛乳が中にあることを示している。冷蔵庫を開けて牛乳を取り出す。牛乳パック側面の画面がゲームをしようと誘っているが、それを黙らせる。ボウルが食器洗い機で洗浄済みのものであることを画面で確認する。シリアルを食べながら、首を振って新聞記事を次へ進める。記事を注視すると、表示が詳細になる。詳しく画面表示すると、文章のリンクが多くなって、図表が増加する。地元の市長に関する非常に長い調査記事の画面表示を始めたが、息子を学校に送って行かなければならない。

急いで自動車に乗る。車の中では、先ほど台所で中断したところから記事の続きが表示される。文章を画面表示すると、運転中にそれを音声で読み上げてくれる。道路沿いの建物もそれ自体が画面になっている。私の車を認識して、通常は私だけに向けた広告を表示する。画面表示している文章に関する説明や図表が出ているとき以外は、いつも私はそれを無視している。交通情報を画面表示して、今朝はどの経路の渋滞が少ないかを調べる。他の運転者の経路から学習することにより、たいていは車が自動的に最適な経路を選択するが、まだフールプルーフにはなっていないので、私は交通の流れを画面表示したい。

息子の学校では、玄関ホールの壁にある画面を見る。手のひらを上げると私を認識する。個人用インタフェースが表示される。私のメッセージを画面表示することができる。詳細を表示したいものを一瞥すると、それが拡大される。手を振っていくつかを転送して、残りは保管場所へ移す。緊急のメッセージが1件ある。空中を指でつまんで仮想会議を画面表示する。インドにいる仕事仲間が私に話しかけてくる。彼らはバンガロールで私を画面表示している。

やっと事務所に到着した。椅子に触れると部屋が私を認識して、室内とテーブル上の全画面が使用可能になる。画面の目が私の一日の行動をしっかりと見ている。もう16年も私の仕事を見てきたので、次に私がすることをほとんど予想できる。画面に並んでいる記号は他の人が見ると意味不明だが、同僚たちの記号の列も私には理解できない。一緒に働いていても、それぞれ全く異なる環境で画面表示している。みんな違ったツールで画面を見ながら、部屋の中を跳び回っている。私はちょっと古風なので、小さな画面を手に持つのが好きだ。私のお気に入りは、大学生のときに使っていた皮のケースに入った画面である。(画面は新しいものだがケースが古い。)それは、ショッピングセンターで寝泊まりする移民のドキュメンタリーを私が制作するときに使っていた画面である。私の手はその画面に慣れているし、その画面は私のジェスチャーに慣れている。

リアリー(訳注:すべての感覚を再現する3D映画)を1時間ほどの間に画面表示することができる。表示速度を最高速にする。画像が飛ぶように流れていく。家に帰ると速度を落とすようにしている。くつろげる画像を壁に表示するのが気に入っている。息子はアドベンチャーゲームが好きだが、それは夕食前の1時間だけに制限している。夕食中は感じの良い色を画面表示して、食事に集中できるようにする。ときどき、学校の授業、食物の成分、雑学知識に関する問題を表示するのを認めることもある。しかし、その画面はできるだけ小さくしている。食事の後は、ベッドに横になって眠りにつくまでの間、好みの物語を天井に表示するのが私の何よりの楽しみだ。

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私のこのシナリオは、読書の未来に関する80編の短いシナリオを集めて出版した『I READ WHERE I AM(我読む、そこに我あり)』に掲載されている。ここに収録してあるシナリオは、多様で興味深くて、なかなか良いものだ。この本はオランダの出版社Valizから入手可能である。






【訳注】
リアリー(realie)とは、約20年前に雑誌ワイアードが提示した造語である。3次元画像による映画で、触感、音響、匂いなどすべての感覚を再現する。まるで現実(real)のように感じられるのでmovie(映画)ではなくてrealieと呼ぶ。(なお、この語の説明はケヴィン・ケリーに教示いただいた。Thanks Kevin! )





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posted by 七左衛門 at 22:48 | 翻訳