訳 :堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "Easy Exotic" の日本語訳である。
手頃な異国感 Easy Exotic
旅行には少なくとも三つの態様があり、たいていの場合、その三種類すべてが混じり合っている。休養、目的、経験の三つの要素について、それぞれの最大値を頂点とする「旅行の三角形」のグラフを書くことができる。理想的な旅行には、三種類が均等に含まれているのだろうが、一般的には、どれか一つの側面が他よりも優勢であることが多い。私自身の旅行では、経験および目的を重視し、休養にはほとんど関心がない。この基準は人によって違うだろう。

三つの要素は、多少重複した性質群を意味している。
「経験」には、見聞、変化、相違、熱意、不確実性などが含まれる。この分類にあてはまる旅行は、未知との遭遇、考え方の変化、快適さからの逸脱、異質なものとの出会いを強調する。
「目的」には、目標や成果を念頭に置いた旅が考えられる。たとえば、長距離を踏破する、山頂へ到達する、米国の全ての州都を訪問する、あるいは、レースで完走する、一位になる、自己ベスト記録を更新する、など。
「休養」とは、日常生活の心配事や課題から離れた休息、くつろぎ、気分転換、休暇、静養などである。豪華な場合もあれば、野性的あるいは原始的な場合もある。
私自身は経験や見聞に大いに関心があるので、私の旅行は、異国風の事物への指向が強い。いつでも機会があれば、最も速く行けて、しかも最も変わった場所に行きたい。私は、すでに行ったことのある場所に、もう一度行きたいとはあまり思わない。休養目的の旅行であれば、同じ場所に行くことは、休養とくつろぎの大きな要素だろう。家族向けの場所は、この種の気分転換に適している。しかし、このようなのんびりとした休暇では、私の電池を充電できない。私の場合は、目新しいものからの圧力、相違による強い摩擦、予期しないものによる感動などを必要とする。つまり私は、旅行では「異質感」を重視する。不快さを求めているわけではなく、また、単なる苦労や命知らずの冒険を求めてもいない。それは私の感覚と比べれば、目的を重視し過ぎている。実際のところ、雨が降る中をわざわざ野外で見聞しなくてもよい。耐久レースでなくても、異質感のための旅行はできる。その均衡点を見つけたい。行動、競争、克服、勝利、成果などに重点を置かなくても、最大の経験ができる旅行を私は求めている。
手の届く異国感というものは実現可能だ。飛行機で国際空港まで行って、さらにそこから2〜3時間以内で全く異なる文化に飛び込んで、多くの教訓が得られるというお気に入りの場所を、私はいくつか知っている。このような場所の多くはアジアにあるが、世界の他の地域にも存在する。下に掲載した写真は、今では容易に訪問できない場所で撮影したものである。アフガニスタンで行われている、山羊をボール代わりにした球技(ブズカシ)の写真だが、これは、ヘリコプターで空を飛びながら撮影したわけではない。2ドルで路線バスに乗って北部の町まで行き、大勢の人々の後について町外れに移動して、数百人の観客とともに丘の中腹にすわって、私は金曜日の試合を観戦していたのである。それは、手頃な異国感だった。手頃な異国感は、実現が難しいわけではないが、それに接すれば大いに得るところがあるものだ。手頃な異国感とは、自宅の玄関から24時間以内に到着できる場所であって、到着初日またはその後24時間以内に、楽しさで笑顔になったり、人間の性質に驚いたりする経験が、5件以上発生する場所である。
あなたが行きたい場所はどこだろうか?

この作品は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。