訳 :堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "The Average Place on Earth" の日本語訳である。
地球を平均すると The Average Place on Earth
技術および人間の活動は、地球全体にわたる規模になり、この両者は、地質学的な力であるかのように地球に作用している。文明は、過去および現在において火山がしてきたのと同じように、気候を変動させている。農業は、過去に気候がしたのと同じように、生物圏を変化させている。さらに今では、巨大都市が、気温と海面との地球規模の均衡に変動を与えている。テクニウム(訳注:文明としての技術)は、全地球的な出来事になっている。
地球全体に展開する技術というシステムは、新たに発生した超個体だと私は考えている。その構成要素は、道路、電線、電話ケーブル、建物、水道、ダム、人工衛星、海上のブイ、船舶、すべての計算機とデータセンター、および60億の全人類である。新旧の技術からなるこの超個体は、地球規模で作用し、すべての大陸に行き渡り、すべての海洋に広がり、宇宙の衛星軌道にまで及んでいるが、それは地表に存在する薄く不均一な層にすぎない。実際のところ、地球上の大部分の場所は、平均すれば、非常に原始的な状態のままである。
一辺が(赤道上で)約100キロメートルの正方形となるように、地球の表面に格子状の直線を描く。そして、この直線のすべての交点で、調査のために写真を撮影する。

Latitude and Longitude of the World (Cylindrical Projection). Enchanted Learning.
http://www.enchantedlearning.com/geography/world/cylatlongoutlinemap/
地球の陸上だけで、約1万個の交点がある。その写真は、地球の陸地がどのようなものであるかを示す、非常に優れた統計的描写になるだろう。

この画像は、陸上にある1万個の交点のうち、6千箇所の写真である。
(Degree Confluenceによる)
格子状の直線は、経線と緯線である。そして、ちょっとすごいことなのだが、1万個の交点のうち6千箇所がすでに撮影されている。勇敢な志願者たちが、半分は芸術的プロジェクトとして、半分は冒険物語として、「緯度と経度の交点」(Degree Confluence)というウェブサイトに登録している。地球上のどこかにある交点を選んで(それがどんなに未開の地であっても)訪問し、その地の風景写真と、GPS画面で緯度経度の数値にゼロが並んでいる写真を証拠として記録する。
このようにして得られた格子状の写真は、いろいろなことを教えてくれる(下図参照)。これは中国南部の一部を示している。地球上でも人口密度が高い地域の一つである。緯度経度の1度ごとに1枚の写真がある。建物はほとんど視野に存在しない。何千年とは言わないまでも、何百年もの間、盛んに農耕が行われてきた場所であっても、驚くほど多くの野生の部分がある。この写真が示すものは、都市化ということの意義である。

(Degree Confluenceによる)
データベースから任意に6枚の画像を取り出してみると、地球が平均として(陸上において)どのように見えるかについて、さらに無作為化した眺望を得ることができる。ここには、農耕さえも見えない。地球を平均すると、テクニウムの力は直接には作用していない。地球を平均すると、田園と荒野である。人跡未踏の荒野がどこまでも続くわけではないが、都市化していない田園地帯が存在している。立派な都市や巨大都市は、まばらに存在する神経細胞のクラスター(塊)にすぎない。

(Degree Confluenceによる)
2050年の未来予測によれば、地球上の80億人の大部分が人口3千万以上の巨大都市に住んでいるという。そして、このような巨大都市のクラスターには、人口百万程度の小さな都市のネットワークが構成される。このきわめて人口密度の高いクラスターは、過疎化しつつある田園地帯をすり抜けてつながっている。すでに今でも、中国、インド、南米などで、村落全体が放棄されている状況が多く見られる。わずかな老人だけを残して、あるいは、誰一人残さず、住民たちは、膨張を続ける都市へ向かって脱出している。
これが地球上で見られるパターンである。きわめて密度が高く膨大な人口を持つ巨大都市のネットワークは、道路や電線という神経で相互につながっている。そして、その神経は、未開の原野、わずかな牧草地、過疎の農村などの空疎な風景の中に張り巡らされている。
2050年には、地球は都市化した惑星になっているが、地球上の平均的な場所は、ほとんど未開のままだろう。
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