訳 :堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "I'll Pay You to Read My Book" の日本語訳である。
本を読んでくれたらお金を払います I'll Pay You to Read My Book
今では誰も、ノンフィクションの大きい本を読まなくなった。そんな時間のある人はいないのだ。大いに苦労して、みんなにノンフィクションの大冊を買ってもらったとしても、たいていの人はその本を読まない。家に持って帰ったとたんに、「あとで読む本」の棚に置かれるだけだ。あるいは、電子書籍リーダーの「受信箱」にたまっていく。私には、わかっている。購入された本がどれほど読まれていないか、著者である私はよく知っている。みんなが本を買ってくれるのはありがたいことだが、購入した(または、借りた)本が読まれていないとすれば、それは著者としては失敗だという気がする。
数年前に、私は、実際の読者を増加させる方法を考案した。「本を読んでくれたらお金を払います!」というものだ。これを実現するために、電子書籍リーダーを巧妙に使っている。このシステムについて、多くの愛書家や作家に説明したところ、その中にアイデアを特許にすることで生計を立てている人がいて、私の考案は特許性があると言った。
私は、その方向の手続を進めかけたが、特許を取得することは、子供をもうけるのと同じようなものだとすぐに気がついた。面倒を見て、保護して、栄養を与えて、育成しなければならない。それによって解決することは何もない。むしろ、解決するべきことが増えるだけだ。子供の養育や特許の売り込みよりも、私には他にすることが山ほどある。だから、そのアイデアをここで公開しようと思う。全く特許性がないかもしれない。あるいは、すでに特許になっているかもしれない(私はそこまでは調べていない)。もしかしたら、実現不可能な、くだらないアイデアなのかもしれない。いずれにしても、それを以下に示しておく。
これは素晴らしいアイデアだと私は思っている。著者として、また出版者として、読者がこのような選択肢を得られれば良いと思う。誰かが実行することを期待している。

「本を読んだ読者に対する金銭支払モデル」
ケヴィン・ケリー
2012年6月1日
特許出願のための明細書:この発明は、本を読んだ人に金銭を支払うものである。
読者は一定の金額、たとえば5ドルで、電子書籍を購入する。読者は、電子書籍リーダーを使ってその電子書籍を読む。電子書籍リーダーには、利用状況を追跡するソフトウェアを内蔵する。これにより、ページをめくる平均所要時間、語句をハイライトする(下線を引く)頻度、1回の読書で読み進むページ数、などを計測する。アマゾンのキンドルは、現在すでに無線のウィスパーネット(Whispernet)経由で、ブックマークの利用パターンをアマゾンに送り返して解析している。確認済の読者から収集した読書パターンのデータベースを使って、購入者の読書行動を既知の読書パターンと比較し、購入者が実際に本を読んでいるかどうかを判定する。その行動パターンが閾値を超えていれば――たとえば全ページの95パーセントを適正な速度でめくっていれば――、電子書籍リーダーは、購入者に対してあらかじめ定められた支払手続を開始する。
実際に本を読んだと認定されれば、その読者は購入時に支出したよりも多くの金額を受け取る。たとえば、電子書籍を5ドルで購入したとすれば、6ドルの返金を受ける。すなわち、本を読んだことに対して、1ドルを獲得する。本の代金が無料になるだけでなく、本を読むことにより金銭を得る。それは、実際に本を読めば、の話である。
出版社は、この制度によって増加すると見込まれる売上収益の中から、その差額を支払う。本を最後まで読んで支出額以上の返金を受けることを期待して、通常よりも多くの読者が本を購入するだろう。読者の心理としては、この本の購入は「お買い得」だ。なぜならば「それは無料になる」と考えるからである。あるいは、その上さらに金銭が儲かると考える。
しかし、より多くの顧客が本を購入する一方で、実際に最後まで完全に読む人は少ない、という結果になると思われる。それは、大部分の本は読まれないという既知のパターンからの帰結である。したがって、成功に対する実際の支払は、売上額よりも少なく、差し引きすればこの取引は、出版社が利益を得る結果となる可能性が高い。たとえば、販売した10冊のうち1冊だけが読まれたとすれば、出版社の収入は$50-$6 = $44となる。この特典提供によって、通常と比べて、たとえば40パーセント売上が増加したとすれば、このビジネスモデルによって、正味の収入は、35ドルから44ドルになって9ドル増加し、割合で言えば25パーセントの増加となる。
どちらの結果になっても、当事者の双方にとって満足感がある。購入者が本を買って、最後まで読まなかった場合、読者は、容認できる金額を支払って、しかもその本を所有し続けている。出版社は、支払の全額を受け取っている。また、購入者が本を読み終えた場合には、その本を所有したままで、さらにその行為によって金銭を得る。出版社は、売上のうちわずかな金額が減少するが、それは、他の人々に対する、より大きな売上で相殺可能である。
払戻率は、電子書籍の価格や対象分野に応じて調節できる。このシステムでは、今日存在するもの以外には新しいハードウェアを必要としない。将来、より優れたハードウェア、たとえばアイトラッキング(視線計測)が実現すれば、本を読んだかどうかをより実際に近く評価できるようになるが、システム自体は、現在のハードウェアだけで構成可能である。この機能は、主にソフトウェアによって実現される。当然ながら、これはオプトインの選択として、購入者の同意がある場合にのみ適用するべきである。
この作品は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。