2013年07月07日

「気付かれない技術」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "Undetectable Technology" の日本語訳である。



気付かれない技術 Undetectable Technology

小説『Permanence』の著者でSF作家のカール・シュレイダーが、フェルミの逆説について書いている。フェルミの逆説とは、宇宙が無限であるならば、発達した文明が無限個存在して、その存在を示す証拠を発しているはずなのに、私たちが見る限りどの方向にもその兆候は見つからない、ということである。空は異星人であふれていそうなものだが、そうなっていない。なぜだ?

シュレイダーの説明は、アーサー・C・クラークの有名な言葉「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」の言い換えである。シュレイダーは次のように述べている。

充分に発達した科学技術は、自然と見分けが付かない。基本的に、発達した異星人の文明は存在していないのか、または、自然の体系と見分けが付かないので私たちが気付かないのか、そのどちらかである。私は後者だと考える。
(KARLSHROEDER.COM "The Deepening Paradox"より引用)


これは興味深く、また、きわめて妥当な答えだ。要するに、私たちは、真に発達した文明に気付くことができない。なぜならば、その技術は非常に発達しているので、惑星と調和して作用する。自然放射線と見分けの付かない何らかの通信を使うなどして、存在しないように見せかけているのだ。その文明は、自然な技術による、ある種の迷彩能力を獲得している。映画「アバター」のパンドラを思い出すと良い。

しかし、それに続くシュレイダーの発言は、テクニウム(訳注:文明としての技術)の観点からいえば、さらに深い意味を持っている。

フェルミの逆説が核心に迫る問題だとすれば、この答えも同じく核心に迫るものである。それは、技術の発達における究極的な到達点のイメージを、宇宙が私たちに提示している、と言っているのと同じだ。壮大な沈黙を通じて、技術の未来が見える。その未来とは、効率をどんどん向上させることである。機械類がその環境の中で熱力学的平衡に達するまで、そして、経済が何も廃棄しないという生態系になるまで、ということだ。結局のところ、SETI(地球外知的生命体探査)とは、本質的に技術の廃棄物の探査であって、無駄な熱、無駄な光、無駄な電磁的信号を探している。成熟した文明は、そのような無駄を生み出さないと仮定するだけでよい。そうすれば、SETIの失敗も説明できる。


このシュレイダーの理論が示唆するのは、技術が欲するものは「自然」だということである。生物学的な自然だけでなく、地質学的な自然、すなわち、自己調節するガイア、惑星規模での自然である。私が書いた本(訳注:『What Technology Wants』)では、まだそこまで十分に考えていなかった。シュレイダーのおかげで、考察を深められたことに感謝する。





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posted by 七左衛門 at 16:44 | 翻訳