2013年12月08日

「企業における長期的思考」

著者:ケヴィン・ケリー ( Kevin Kelly )
訳 :堺屋七左衛門


この文章は Kevin Kelly による "Corporate Long-term-ism" の日本語訳である。



企業における長期的思考 Corporate Long-term-ism

最近、IBMが同社の百周年に際して、ニューヨークタイムズとウォールストリートジャーナルに4ページに及ぶ全面広告を掲載した。(訳注:原文発表は2011年7月)その広告は、長期的思考の利点についての的確な解説である。その一部を引用する(太字はケヴィン・ケリーによる)。

私たちの祖父の時代の一流会社は、ほとんど全部がすでに消滅しています。1900年の米国事業法人上位25社のうち、1960年代初頭に同じリストに残っているのは、たった2社だけです。1961年のフォーチュン500の上位25社で、今もその地位にあるのは、6社にすぎません。
(略)

百年にわたる会社の歴史は、次のような事実を教えてくれます。長期にわたって影響を持続するためには、長期的な経営をしなければならないのです。これは誰にでもわかる簡単な教訓のように見えますが、実践するのは一生かかる大仕事です。長期的思考は、人を指導する場合のほとんどすべての局面に関係しています。長期的思考は、安全でも確実でも保守的でもありません。その恩恵は強力ですが、長期的思考を実現するためには、根本的な問題に直面せざるを得ません。「組織が、その設立者の寿命より長く存続できるか?」ということです。

短期的思考で動いている世界の中で、どうすれば長期的な経営ができるのでしょうか? 50年前の株主は、持ち株を平均8年間保有し続けました。今日では、それが6ヶ月と短くなっています。投機家によって、市場はますます速く動いています。過去15年間に、CEO交代件数は約50パーセント増加しました。短期的思考が勝利しているようです。さて、本当にそうでしょうか?

未来へ向かって進むということは、自分が今持っているものを再構築することでもあります。当社は、メインフレームビジネスで、それを繰り返し経験しました。メインフレームは直ちに消滅すると何度も言われてきましたが、過去13年間に当社は、導入済メインフレームの能力を1000パーセント増加させているのです。

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長期的思考の報酬
(新規上場から現在までのIBMの株価)
もしもあなたの曽祖父が1915年にIBM株を100株購入していたら、その投資の価値は、今では約2億ドルになっている。

<ここまで2011年7月の新聞広告から引用>

長期的思考は、表向きは政治の役割である。理想的には、政治は、現在の世代に対して将来の世代の利害を代表するものだ。政治は、後になってから効果が発現して、その後何世代にもわたって効果が持続するような事業に資金を投入するべきである。たとえば、道路、水道、図書館、教育など。政治は、それ以外の問題、たとえば差別撤廃、安全保障などにも関与する。しかし、このような問題は、場合によっては、他の組織が対処することも可能である。私たちは今まで、企業には長期的な視点を持つ能力がないと考え、また、何世代にも及ぶ課題は、政治だけが対応するものだと考えてきた。

しかし、奇妙なことが起こっている。政治に強く反対する考え方、すなわち、政治はものごとを混乱させるだけだという見方が世界中で(米国のみならず)広まっている。それと同時に、企業が社会的な善の原動力だという意見も広まっている。

上述の広告は単なる企業広告であり、全くの誇大広告かもしれないが、この発言をしたのはIBMであり、米国政府ではないということに注目したい。最近、米国の数少ない長期的プロジェクトの一つが廃止された。スペースシャトルである。米国政府は、その他にも資金援助の廃止対象となる長期的な大規模プロジェクトをさがしているようだ。

政治が長期的な問題に対して責任を持って行動しなければ、企業は長期的思考を維持できないと思う。しかし、長期的思考がより広く世間に受け入れられて、事業者にとって重要なことだと考えられるようになれば、事業者の意見を聞くだけの政府の人々にも、そのメッセージが届くかもしれない。IBMが言うように、「長期にわたって影響を持続するためには、長期的な経営をしなければならない」のである。





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posted by 七左衛門 at 19:30 | 翻訳